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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(あ)572号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人星野新平の弁護人岡田久恵の上告趣意第一点は訴訟法違反、事実誤認、同第二点は量刑不当の各主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人高木幸子の弁護人岡田久恵の上告趣意第一点は訴訟法違反、事実誤認、同第二点は量刑不当の各主張であって、いずれも適法な上告理由に当らない。

被告人高木幸子の弁護人森吉義旭の上告趣意第一点(1)、(2)はいずれも訴訟法違反、事実誤認の主張であって、(なお所論高木貞子の検察官に対する各供述調書が任意性を欠くと認むべき資料は存しない)適法な上告理由に当らない。

同第二点は事実誤認、同第三点一乃至五は単なる法令違反(訴訟法違反を含む)、事実誤認の主張で(所論引用の判例は本件に適切でなく)いずれも適法な上告理由に当らない。

同第四点一について。

所論は判例違反を主張する。所論の点に関し第一審判決の判示三の事実は、要するに、被告人高木幸子は外二名と共謀のうえ、銀行振出の小切手を改ざんしこれを債権者に呈示して行使しようと企て、(1)行使の目的をもってほしいままに株式会社埼玉銀行大宮支店長神田芳雄振出にかかる金額五百円の小切手一通の金額欄の記載の「金五百円也」のうち「百」の文字の部分にチェックライターで「万」の一字を重ね打って押捺記入する方法によってその金額五百円を五万円に改ざんし、(2)行使の目的をもってほしいままに、いずれも右銀行大宮支店長神田芳雄振出にかかる金額五百円および金額千円の小切手各一通の各金額欄に前同様の方法によりその金額五百円を五百万円に、また金額千円を千万円にそれぞれ改ざんした後、右金額五百万円の改ざん小切手一通を判示債権者高橋徳助に対し真正に成立したもののごとく装い呈示行使したものである、というのであり、原判決は右第一審判決判示事実を是認した上、右改ざんの各所為は刑法一六二条一項の有価証券偽造罪に当るとしてこれを適用処断した第一審判決の法令の適用を是認し、右法条の解釈につき昭和七年九月九日大審院判例を引用する。

けれども行使の目的をもってほしいままに右判示の如く他人振出名義の小切手の金額欄の金額数字を改ざんする所為は小切手の変造であって有価証券変造罪に当るものと解すべきであるから、この点に関する原判示は刑法一六二条一項の解釈を誤まったものというほかなく、論旨引用の大審院明治三四年(れ)七五九号同年五月三一日判決および同院大正三年(れ)一四二号同年五月七日判決の趣旨とも相反する訳ではあるが、しかし、有価証券の偽造、変造はともに同条同項に該当し、その各行使も同法一六三条一項に該当することに変りはないから、右法律解釈の誤は原判決に影響を及ぼさず、原判決破棄の理由とするに足らない。論旨は結局理由なきに帰する。

同第四点二は事実誤認およびこれを前提とする単なる法令違反の主張であって(引用の判例は本件に適切でない)適法な上告理由に当らない。

同第四点三は判例違反をいうが引用の判例はいずれも本件に適切でなく、所論の実質は事実誤認の主張で、適法な上告理由に当らない。

同第四点四は事実誤認、単なる法令違反の主張であって適法な上告理由に当らない。(引用の判例は被告人高木幸子に犯意ありとする本件には適切を欠く。)

同第五点は量刑不当の主張にすぎず適法な上告理由に当らない。

同弁護人の上告趣意補充書について。

所論は本件小切手の偽造行使の目的は被告人高木幸子の旧債支払猶予の目的ではなかったという事実誤認の主張であって適法な上告理由に当らない(なお被告人高木および同星野の司法警察員に対する所論供述調書が任意性を欠くと認めるべき資料はない)。

記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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